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個人的な体験
個人的な体験 個人的な体験
大江 健三郎 (1981/02)
新潮社

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大江健三郎はこれまで割と意図的に読むのを避けてきたんですが、アマゾンのギフト券があったので買ってみました。

「確かにこれはぼく個人に限った、まったく個人的な体験だ」と鳥はいった。「個人的な体験のうちにも、ひとりでその体験の洞穴をどんどん進んでゆくと、やがては、人間一般にかかわる真実の展望のひらける抜け道に出ることのできる、そういう体験はある筈だろう? その場合、とにかく苦しむ個人には苦しみのあとの果実があたえられるわけだ。暗闇の洞穴で辛い思いはしたが地表に出ることができると同時に金貨の袋も手にいれていたトム・ソウヤーみたいに! ところがいまぼくの個人的に体験している苦役ときたら、他のあらゆる人間の世界から孤立している自分ひとりの竪穴を、絶望的に深く掘り進んでいることにすぎない。おなじ暗闇の穴ぼこで苦しい汗を流しても、ぼくの体験からは、人間的な意味のひとかけらも生れない。不毛で恥かしいだけの厭らしい穴掘りだ、ぼくのトム・ソウヤーはやたらに深い竪穴の底で気が狂ってしまうのかもしれないや」



タイトルの由来と思われる箇所を引用してみました。ストーリー自体は実にシンプルで「自分の子どもが頭部に異常をもって生れてきたことを知らされた父親の悩み」みたいな感じです。文章表現はやはり巧みです。人間業じゃないような小説みたいなものを想像していたのですが、そんなこともなく、この小説に限っては読みやすいともいえるのではないでしょうか。登場人物や構成が有機的に絡んでいきます。
読み終わったあとで思ったのは、影響力の強さです。私が意図的にこの作家を避けていたのは、巷の評判などを聞くに、自分が創作する場合に絶対影響を受けてしまうであろうと思っていたからで、結局「こんなん書いてみたいな」とか「この表現がいい」などと影響を受けてしまいました。

大江健三郎 | 【2007-02-21(Wed) 02:56:03】
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